アデノウイルス感染症
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目次
- アデノウイルス感染症とは?
1-1. どうやって人にうつる?
1-2. ペットにはうつる?
1-3. 検査方法は?
1-4. いつ検査をするべき?
1-5. 検査は必要? - アデノウイルスが引き起こす病気
2-1. 咽頭結膜熱(プール熱)
①症状
②潜伏期間
③登園・登校・出社の目安
④治療
2-2. 流行性角結膜炎(はやり目)
①症状
②潜伏期間
③登園・登校・出社の目安
④治療
2-3. ウイルス性胃腸炎
①症状
②潜伏期間
③登園・登校・出社の目安
④治療
2-4. その他
①肺炎
②腸重積
③虫垂炎/腸間膜リンパ節炎
④出血性膀胱炎
⑤心筋炎 - まとめ
- 参考文献
1. アデノウイルス感染症とは?
アデノウィルスは世界中で季節に関係なく感染するウィルスの1つです
10歳までにほとんどの人が1度は感染すると言われるほど一般的なウイルスです
1-1. どうやって人にうつる?感染経路は?
エアロゾル感染や糞口感染、接触感染で感染するとされます
①エアロゾル感染
咳やくしゃみ、喋るときなどに発生するツバから感染します
空気中をしばらく漂うため、換気やマスクなどでの対策が必要です
②糞口感染
糞便中に含まれるウイルスを口にしてしまうことで感染する
アデノウイルスでは特に下痢がなくても2週間程度は便の中にウイルスがいるとされているので手洗いや消毒が大事です
③接触感染
アデノウイルスは環境中でも長期間(7日以上)生存できるとされます
また、アルコール消毒が効きにくいため、次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイター®︎など)での消毒が有効です
1-2. ペットにはうつる?
ペットには感染しないと考えられます。
アデノウイルスは正式には『ヒトアデノウイルス』と言われており、他の生き物には感染しにくいとされております。
サルにも感染したとの種類があるとの報告があるため、霊長類には感染する可能性がありますが、犬や猫、鳥などのペットに感染する可能性は現時点ではほとんどないと考えられます。
1-3. 検査方法は?
目や口の中、便などを綿棒で擦って検査を行います。
①抗原検査
検査が陽性であればアデノウイルス感染症と考えられます。[精度95-100%]
一方、検査が陰性であっても40-50%は偽陰性とされております。
また、6歳以上では70%が偽陰性という報告もあります。
検査が陰性であっても否定できるものではないので注意しましょう。
②PCR検査
抗原検査よりも精度が高いとされています。
一方で高価な検査のため、アデノウイルスを疑ってPCR検査を施行することは稀です。
1-4. いつ検査をするべき?
発症から3-5日目頃がウイルス排出のピークという報告があります。
検査の偽陰性が多いため、発熱直後よりも数日待ったほうが精度が高いと考えられます。
1-5. 検査は必要か?
治療薬がない病気のため、基本的に検査は必須ではありません。
ただし、他のウイルス感染症と異なり採血検査でCRPという炎症の値が高くなりやすいです。
・一般的なウイルスは 3 mg/dL未満
・アデノウイルスは平均で 小児 4 mg/dL,大人 8 mg/dL
そのため、川崎病や細菌感染といったCRPが高くなり、治療が必要な他の病気との鑑別のために検査が必要になることがあります。
また
・原因が分かることの安心感
・周囲の感染への心配
などもあると思いますので、検査希望の際にはお気軽にご相談ください。
2. アデノウイルスが引き起こす病気
種類は大きく分けると7種類(A~G)に分けられており、細かく分類されると100種類以上あります。
それらの種類によって症状や人に感染させやすい期間が異なります。
『アデノウイルスだから○日休む』ではなく『アデノウイルスによるこの病気だから○日休む』となります。
以下が代表的なアデノウイルスがきたす疾患です
2-1. 咽頭結膜熱(プール熱)
咽頭結膜熱(プール熱) は、アデノウイルスによって引き起こされる感染症で、特に夏に流行しやすいことから「夏かぜ」の一種として知られています。プールで感染が広がることがあるため「プール熱」とも呼ばれます。小児に多い病気ですが、大人もかかることがあります。
①症状
・発熱:38~40℃の高熱が3~4日ほど続きます。
・結膜炎(目の赤み)
・咽頭炎(のどの痛み)
この3つが主な症状ですが、すべてが揃わない場合も多いです。
また以下のような症状を伴うこともあります
・腹痛や下痢などの消化器症状
・頭痛
・倦怠感
②潜伏期間
5〜7日程度 とされています。
症状が出る前からウイルスを周囲にうつしてしまうこともあり、集団生活で注意が必要です。
③登園・登校・出社の目安
登園・登校
- 発熱・目の充血・のどの痛みなどの症状が改善して 2日休む必要があります。
→改善した日を「0日目」と数え、3日目から登園・登校可となります。
出社
- 法律上の規定はありませんが、症状改善後2日間は特に感染拡大に注意が必要です。
④治療
薬による治療
- 原因ウイルスに直接効く薬はありません。
- 治療は対症療法が中心で、発熱や痛みに対してアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を使用します。
生活上の注意点
- 水分と糖分の補給が重要です。
- 特に小児では水分・糖分不足から吐き気 → さらに摂取困難 → さらなる不足…という悪循環に陥りやすいため注意しましょう。
- 糖分補給には ブドウ糖 が適しています。
ブドウ糖単体が手に入りにくい場合は、以下のような市販飲料で代用可能です
- アクアライト(種類によってブドウ糖を含有)
- OS-1(ブドウ糖+果糖)
- アクアソリタ(ブドウ糖+人工甘味料)
2-2. 流行性角結膜炎(はやり目)
①症状
- 目の強い充血
- 涙が多く出る(流涙)
- 目やに(特にサラサラした水様性)
- まぶたの腫れ
- ゴロゴロする異物感、かゆみ、痛み
- 発熱やのどの痛みを伴うこともあり
症状は片目から始まり、数日で両目に広がるケースが多いです。
②潜伏期間
潜伏期間は約5〜14日間です。
症状が出る前からウイルスを排泄していることもあり、気づかないうちに周囲に感染させてしまうことがあります。
③登園・登校・出社の目安
登園・登校
学校保健安全法で、流行性角結膜炎は「第二種感染症」に指定されています。
- 結膜炎の症状がなくなり、医師が感染のおそれがないと判断するまで出席停止です。
- 目の赤み・涙・めやにが続く間は感染力が強いため、登園・登校はできません。
- 完全に治るまでに 2〜3週間 かかることもあります。
出社
- 法律上の規定はありませんが、2~3週間は感染対策に注意が必要です。
④治療
薬による治療
- 原因ウイルスに直接効く薬はありません。
- 治療は基本的に 対症療法 です。
・かゆみ・炎症に対する点眼薬
・目の不快感をやわらげる人工涙液
・二次感染(細菌感染)予防の抗菌薬点眼
などが用いられることがあります
重症化すると角膜に濁りが残り、視力に影響することがあるため注意が必要です。
生活上の注意点
- タオルや枕カバーは共用しない
- こまめに石けんで手洗い
- アルコールでは不十分なため、次亜塩素酸系消毒剤の使用が有効です
2-3. ウイルス性胃腸炎
アデノウイルス胃腸炎 は4歳以下のお子さんに多くみられる感染症のひとつです。
小児の急性胃腸炎のうち2~15%ほどを占めるとされます。ノロウイルスやロタウイルスと同様に流行することがあり、家庭内や保育園・幼稚園、学校などで集団感染を起こすこともあります。
①症状
- 下痢(水様性のことが多い)
- 嘔吐
- 発熱(38℃前後の発熱が数日続くこともある)
- 腹痛
また、食欲低下や全身のだるさ(倦怠感)を伴うこともあります。
多くは軽症で自然に回復しますが、小児では脱水症状に注意が必要です。
②潜伏期間
アデノウイルス胃腸炎の潜伏期間は 5〜7日程度 とされています。
症状が出る前から感染力を持つ場合もあり、集団生活では注意が必要です。
③登園・登校・出社の目安
登園・登校
- 法律上の出席停止規定はありません。
- ただし、嘔吐・食欲低下などの症状がある間は周囲に感染させる可能性が高いため、嘔吐や食欲低下が改善してから登園・登校することが望まれます。
出社
- 法的規定はありませんが、同様に嘔吐がある間は他の人への感染を避けるため、自宅で安静に過ごすことが推奨されます。
④治療
薬による治療
- 原因ウイルスに直接効く薬はありません。
- 対症療法が中心で、発熱や腹痛にはアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬を使用することがあります。
生活上の注意点
- 水分・電解質・糖分の補給が最も大切です。
- 小児では水分・糖分不足から嘔吐 → さらに摂取できない → 脱水が進む…という悪循環に陥りやすいため注意が必要です。
- 糖分の補給にはブドウ糖が望ましいですが、手に入らない場合はブドウ糖を含む市販の経口補水液(OS-1、アクアソリタなど)で代用できます。
2-4. その他
①肺炎
- 小児肺炎の原因の約5~10%を占めるとされます。
- 激しい咳、呼吸困難感があれば疑われます。
- 呼吸管理のために入院を要することもあります。
②腸重積
- 主に2歳未満に生じる稀な合併症です。
- アデノウイルス(特に血清型41など)によるリンパ組織腫脹が原因とされます。
- 繰り返す嘔吐、周期的に激しく泣く、血便などがあれば疑います。
③虫垂炎/腸間膜リンパ節炎
- 腹痛があり、右下腹部を押して痛い時などに疑います。
- 超音波検査などの画像検査を行い診断します。
- 腸間膜リンパ節炎は虫垂炎と似ておりますが、虫垂炎と異なり手術は不要です。
④出血性膀胱炎
- 学童期の男児に多く、排尿困難、頻尿、血尿などから疑います。
- 夜尿(おねしょ)、発熱、腹痛を伴うこともあります。
- 平均5日程度で自然に軽快することが多いです。
⑤心筋炎
- 稀だが重症化しうる合併症として心筋炎があります。
- 倦怠感、呼吸困難、胸痛、動悸、浮腫などから疑います。
- 血圧低下や心電図、胸部レントゲン、心臓超音波検査などの所見から判断します。
- 全身管理のために原則入院となります。
3. まとめ
アデノウイルス感染症は子どもに多いウイルス性の病気で、
- 咽頭結膜熱(プール熱)
- 流行性角結膜炎(はやり目)
- ウイルス性胃腸炎
を代表とし、まれに肺炎や膀胱炎、心筋炎を起こすこともあります。
潜伏期間は5〜7日(結膜炎は5〜14日)で、症状に応じて登園・登校を控える必要があります。
治療は特効薬はなく、水分・糖分の補給と安静が中心です。
重い症状(高熱が続く、強い目の充血、血尿、呼吸苦など)がある場合は早めに受診しましょう。
4. 参考文献
- Garcia-Zalisnak D, Rapuano C, Sheppard JD, Davis AR. Adenovirus ocular infections: prevalence, pathology, pitfalls, and practical pointers. Eye Contact Lens. 2018 Sep;44 Suppl 1:S1–S7. doi:10.1097/ICL.0000000000000226.
- Kajon AE. Adenovirus infections: new insights for the clinical laboratory. J Clin Microbiol. 2024 Sep 11;62(9):e00836-22. doi:10.1128/jcm.00836-22. Epub 2024 Aug 27.
- Shieh WJ. Human adenovirus infections in pediatric population—an update on clinico-pathologic correlation. Biomed J. 2022 Feb;45(1):38–49. doi:10.1016/j.bj.2021.08.009. Epub 2021 Sep 10.
- Levent F, Greer JM, Snider M, Demmler-Harrison GJ. Performance of a new immunochromatographic assay for detection of adenoviruses in children. J Clin Virol. 2009 Feb;44(2):173–175. doi:10.1016/j.jcv.2008.11.002. Epub 2008 Dec 19.
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- Perić, L., Bekić, D., Tripković, V., Škorić, L., Mrzljak, A., Tešija Kuna, A., … & Vilibić-Čavlek, T. (2024). Clinical and Radiological Features of an Adenovirus Type 7 Outbreak in Split-Dalmatia County, Croatia, 2022–2023. Viruses, 16(5), 597.