RSウイルスワクチン(アレックスビー、アブリスボ)

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1. RSウイルスワクチンは接種するべきか?

接種推奨

  • 妊婦[妊娠30-36週](特に生まれてくるお子さんの兄弟がいる場合はお勧め) *にアブリスボの投与
    *当院では妊婦さんへは接種しておりません。かかりつけの産婦人科での接種をお願いします。
  • 60歳以上の高齢者呼吸器や循環器疾患などの基礎疾患を持っている方、費用負担が気にならない方にアレックスビーの投与

2. RSウイルスワクチンとは?

RSウイルスは特に小児(特に生後6ヶ月未満)や高齢者で重症化しやすいウイルスとして知られております。

接種対象は

  • 妊婦(妊娠30-36週が推奨:接種することで生まれてくる子供に免疫をつける)
  • 高齢者(60歳以上)

のみとなっております。

*重症化リスクの高い乳幼児はシナジス®(パリビズマブ)、ベイフォータス®(ニルセビマブ)を接種しますがは厳密にはワクチンに含まれません。

3. 日本で承認されているRSウイルスワクチン

  • アレックスビー(Arexvy/GSK):高齢者対象
  • アブリスボ(Abrysvo/Pfizer):高齢者と妊婦対象
  • エムレスビア(mRESVIA/Moderna):高齢者対象

*エムレスビアは承認済み(2025年5月19日)ですが販売は未定です

4. RSウイルスワクチンの有効性と副反応

4-1. 妊婦に対するワクチンの有効性と副反応

  • 妊婦に対してはアブリスボのみ研究されております
  • 生まれた子に対するRSウイルスの重症化予防効果は生後6ヶ月までで約70%でした
  • 副反応は
    1. 局所反応(痛み 41.3%、発赤 7.2%、腫脹 6.2%)
    2. 全身症状(筋肉痛: 28.6% 、 頭痛 32.7% 、倦怠感 46.2%、吐き気 20.0%)
    3. 以下に記載した重大な副反応に有意な差は認めませんでした
ワクチンプラセボ
早産(在胎37週未満)5.7%4.7%
低出生体重児(2500g以下)5.1%4.4%
発達遅延0.7%0.5%
先天異常5.6%6.7%
生後1ヶ月以内の死亡3例 (<0.1%)5例 (0.1%)
生後1ヶ月から6ヶ月の死亡3例 (<0.1%)6例 (0.2%)

4-2. 高齢者(60歳以上)に対するワクチンの有効性と副反応の比較

  • 効果の強さ
    アレックスビー≒エムレスビア>アブリスボ
  • 副作用の少なさ
    アブリスボ>アレックスビー≒エムレスビア

というイメージです

基本的に効果の強さや研究期間の長さから高齢者(60歳以上)は上記3種類の中ではアレックスビーをお勧めしております。

アレックスビーアブリスボエムレスビア
有効性82.6%66.7%83.7%
副作用局所の痛み 60%
発熱 2%
倦怠感 34%
局所の痛み 11%
発熱 1%
倦怠感 16%
局所の痛み 約60%
発熱 約3%
倦怠感 約30%

上記は第3相試験での比較、主要エンドポイントが若干異なるため解釈に注意が必要

5. RSウイルスワクチンの接種費用

  • RSウイルスワクチンは任意接種のワクチンです
  • 任意接種は自費となるため、接種費用は医療機関毎に異なります
  • 当院での接種費用はこちら
アレックスビーアブリスボエムレスビア
費用28,000円程度32000円程度未定

6. RSウイルスワクチン接種時の注意点

  • アレックスビーやアブリスボは他のワクチンと同時接種可能です
    *百日咳含有ワクチン(Tdap[日本未承認])とアブリスボの同時接種では百日咳の抗体が付きにくくなるとされておりますが、DPTワクチン[トリビック®︎]はTdapより百日咳の抗原量が多いため問題ないかもしれません(データ不足のため判断は困難)。
    当院では妊婦の方はアブリスボとDPTワクチン[トリビック®︎]の接種間隔は産科医師の判断に任せております。
  • 妊婦のRSVワクチン接種は妊娠30週以降、産婦人科で接種してください
    妊娠24週から接種可能ですが、妊娠24-30週の接種と妊娠30-36週では後者の方が有効性が高いことが示されております

7. RSウイルスワクチンの真の効果について考える

多くの文献はワクチンの効果の指標として有効率を示しています。

ただ、例えば発症予防に対する有効率が100%のワクチンでも、その病気になる人が1000万人に1人しかならなければ

1人の発症予防のために1000万人にワクチン接種しなければいけないのです。

だからこそ『1人のイベント発生減少には何人にワクチン接種が必要か?』という視点が重要と考えます。

7-1. 妊婦の方何人にワクチン接種すると1人のRSウイルス感染を予防できる?

妊婦に対するアブリスボの研究では、生まれた子が180日以内に

  1. RSウイルス感染により受診する割合は3.7%、ワクチン接種すると1.9%に減少
    →約56人に接種すると1件の受診を減らせる
  2. 重症のRSウイルス感染となる割合は2.0%、ワクチン接種すると0.6%に減少
    →約72人に接種すると1件の重症RSウイルス感染を減らせる

と計算されました。私は重症化予防で100人未満であれば良い方と考えておりますので妊婦さんにはやはりアブリスボはお勧めします。

7-2. 60歳以上の方何人にワクチン接種するとRSウイルス感染を予防できる?

高齢者の研究(60歳以上)ではアレックスビーの研究が最長(中央値30.6ヶ月)で

  1. RSウイルス下気道疾患を起こす割合は1.7%、ワクチン接種すると0.4%に減少
    →約75人に接種すると1回のRSウイルス下気道疾患を減らせる
  2. 重症RSウイルス感染となる割合は0.60%、ワクチン接種すると0.12%に減少する
    →約208人に接種すると1回の重症RSウイルス感染を減らせる

と計算されました。

今後ワクチンが長期間有効であるデータが出れば効果は上がりますが

現状のデータでは、3万円弱はするワクチンなので高齢者にはもう少し効いて欲しいところです。

そういった理由から、60歳以上の中でも

  • 呼吸器疾患や循環器疾患などの基礎疾患を持っているリスクが高いと思われる方
  • 費用を気にされない方

に接種を推奨しております

8.まとめ

  • 妊婦の方にはアブリスボ接種推奨
  • 60歳以上、基礎疾患あり、費用を気にしなければアレックスビー接種推奨

参考文献

  1. Simões EA, et al. Efficacy, safety, and immunogenicity of the MATISSE maternal RSV prefusion F protein vaccine trial. Obstet Gynecol. 2025;145(2):157-167.
  2. Papi A, et al; AReSVi-006 Study Group. Respiratory syncytial virus prefusion F protein vaccine in older adults. N Engl J Med. 2023;388(7):595-608.
  3. Walsh EE, et al; RENOIR Clinical Trial Group. Efficacy and safety of a bivalent RSV prefusion F vaccine in older adults. N Engl J Med. 2023;388(16):1465-1477.
  4. Wilson E, et al; ConquerRSV Study Group. Efficacy and safety of an mRNA-based RSV preF vaccine in older adults. N Engl J Med. 2023;389(24):2233-2244.
  5. GSK. GSK presents positive data for Arexvy: protection over three RSV seasons [press release]. Philadelphia, PA; 2024 Oct 8.

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